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コラム-気分転換-

気分転換

 健康維持の要点として、私は次の事項を患者さんに勧めています。十分な睡眠、規則正しい食事、そして気分転換。健康のバロメーターに、睡眠、食欲、便通があり、これら三者は互いに連携し合い、どれかひとつ欠けても快適な調子は得られません。そこで最初の二者に加え、日常から離れた何かをすれば、余計な緊張がとれて便通も自然に促されると考えられるからです。


 ところがこの話に及ぶたび往々にしてスムーズに行かないのが「気分転換」でした。睡眠と食事に関してはそれだけでわかってもらえますが、こと気分転換になると意味する内容が幅広く、個々の状態に応じてできることが異なってくるため一様ではありません。
 実際どのようにすればいいのか尋ねられ、「無理しない程度に好きなこと」とか、具体例として「散歩やカラオケ、庭仕事など」をあげます。ところが、これを聞いて早速実行してくれる人がいても、次の受診の頃には億劫さを感じ始めたり、既に体調を崩している場合が時に見られるのです。
 おそらくこちら側の説明不足と、受け取り手の問題が重なった結果でしょう。特に日本のようにまじめさが重要視される社会では、ものごとを適当にしておけない傾向が強く、気分転換であるはずのものが知らぬ間に義務となり無理へ達し、新たなストレスに発展しかねません。


 そんな時偶然、医学雑誌で興味深い記事を見つけました。哲学者、鶴見俊輔氏が提唱する「神話的時間」という考えです。それは、例えば母親が本を読み聞かせている時、子どもは寝てしまったのに母親は夢中に読み続け、物語の世界に入り込んでいる時間を指します。つまり、読む行為を超え、そこから生まれる楽しみに我を忘れた一時といえるでしょう。毎日を忙しさに追われている私たちが、そうした時間を持つことはストレスへの対処法として意味があると説いています。
 まさに「気分転換」の本質がわかりやすく表現されていると思いました。たとえ気晴らしを目指して一生懸命遊んでも、そこで肝心のモードが変わっていなければストレスは解消されません。旨いと味わえる一杯の酒がその日の疲れを癒してくれ、嫌なことを忘れようと飲むだけの酒は心身を痛めるのと似ています。


気分転換で大切なことは、何をするかではなく、心のモードが「快」になっているかどうかでした。

「仙台経済界」2002年 7-8月号掲載

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