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コラム-「トラブル」と「ビューティー」-

「トラブル」と「ビューティー」

 医療の分野では新薬が登場する度、その特性や使い方についての説明会が開かれます。精神科の場合、90年代後半から新しいタイプの治療薬が相次いで国内に紹介されるようになりました。この勢いは50年代の抗精神病薬発見以来のことであり、心の問題が新たな角度から注目されてきたためといえましょう。


  去る7月、同様の会に参加する機会を得ました。今回は精神分裂病治療薬の液剤タイプ発売に先だっての集まりです。この薬剤もほとんどの新薬に漏れず外国製で、演者4人のうち3人はアメリカの研究者でした。


  日本で精神分裂病は、社会的偏見を解消しようと今年6月に「統合失調症」へ病名が変更され、8月には横浜で開かれる世界精神医学会で新名称を広く呼びかけることになっています。特にこの病気は最近のアメリカ映画、「ビューティフル・マインド」でテーマになり、多くの人々が共感を覚えたところです。
  これは、統合失調症を患いながらもノーベル賞を授賞した数学者の話で、私もその映画を興味深く見ました。特徴的な症状である幻覚・妄想に対して必死に折り合いをつけて生きる主人公の姿と、彼に付き添い続ける妻の援助がリアルに描写されています。内面に抱えた「ハンディキャップ」と苦闘する当事者や周囲の苦悩が鮮明に印象付けられました。


  今や精神医学は科学の進歩に伴ない、脳内神経伝達物質をめぐる研究が主流となり、むしろ「脳」というハード面に焦点が絞られつつあります。7月の説明会も本質は同じ流れに乗ってはいたものの、ところどころ「心」にかかわるソフト面の話も聞かれました。
  統合失調症患者の治療と社会復帰についてのくだりがそのひとつです。前述の映画のストーリーを織り交ぜながら、演者は重要な点として、「患者への正当な評価」をあげます。開かれた社会であるためには、すべての人間が平等に尊重し、認め合う姿勢の必要性を説いたのです。統合失調症とノーベル賞が結びついたのはまさにこの考え方によるものでしょう。最後の演者も同じ映画に触れ、「Troubled Mind(トラブルした心)」が実は題名の「Beautiful Mind」でもあることをスライドで映し、会は終わりました。


  誰に対しても正当な評価のできる社会では、「トラブル」と「ビューティー」は互いに排除するのではなく表裏一体の存在です。

「仙台経済界」2002年 9-10月号掲載

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