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コラム-セレンディビティ-

セレンディピティ

 昨今の明るい話題に、日本人2人のノーベル賞授賞があります。物質を構成する基本粒子のひとつ「ニュートリノ」を検出した小柴昌俊氏の成果は、それまで質量がゼロとされてきた従来の説を覆し、新しい物理学の領域を開拓しました。また田中耕一氏は、生体の種々の機能を担うたんぱく質の質量を正確に測定し、新薬開発、病気の早期診断、植物の品種改良などの発展に可能性を広げました。


 科学の領域では、ほんの偶然が大きな発見につながることが少なくありません。英語ではこの「掘り出し上手な能力」を「セレンディピティ」と表現します。これは18世紀中頃、英国のホラス・ウォルポールという著述家が「セレンディップの3人の王子」と題する物語から造った言葉です。現在のスリランカ、かつてセレンディップと呼ばれた国の王子達が他国へ旅をする間さまざまな苦難に遭遇しつつも、思いがけない珍宝をうまく見つけ出す話です。


 小柴、田中両氏の成功も、まさにセレンディピティの賜物といえましょう。特に田中氏は、それまでの好機をテレビで次のように述べていました。「たんぱく質の質量分析研究との出会い」、「予定外の実験試料」、「その試料を捨てず」に「観察を続けたこと」。もしマニュアル通りの人間であったら、試料作りの手違いからあえて横道へ冒険する気は起こらなかったでしょう。そこには道草できる「心のゆとり」がありました。


 ところで、平成14年4月から「ゆとり教育」の一環として、公立の小中学校で週休2日制が始まりました。大人たちの間では、課外活動に視野の広がりを期待する賛成派、学力低下を心配する反対派に意見が分かれています。実際、この休日を有意義なものにさせようと、市町村の約9割が課外活動事業に取り組んでおり、他方、親たちの不安を反映するように、学習塾の総収入額は平成元年から10年で約3倍に拡大したそうです。文部科学省の調べでは、課外活動への参加率は4人に1人から半数強と振るわず、その理由は「時間的余裕がない」、「関心がない」が上位を占めていたと聞きました。自分自身の時間を持ちたい子供たちと、常に何かをさせていないと安心できない大人たちとの隔たりが感じられます。「セレンディピティ」は教育の場でも重要です。個性尊重と平等主義の狭間で揺れ動く「ゆとり教育」が本来のゆとりを見失わないで欲しいものです。

「仙台経済界」2003年 1-2月号掲載

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